黄金のアデーレ

「第二次大戦中ナチに奪われた名画、彫刻を取り戻す」という内容の映画では、最近上映された“ミケランジェロ・プロジェクト”(原題:Monument Men)が、有名?ですが、私の感想では、掘り下げ方が浅く、しかも主役のジョージ・クルーニーに全くシリアスさが感じられなく、失望しました。“オーシャンズ13”とか“アルゴ”あたりは、はまっているのに。

今、上映中の“黄金のアデーレ”は、それとはまったく正反対の、深い感動をもらえる今年のベスト5(私の中でですが)に入る作品でした。オーストリア・ウィーンのユダヤ系の名家“ブロッホ・マイヤー家”のアデーレ・マイヤーの肖像画が、ウィーン分離派の巨匠“グスタフ・クリムト”によって描かれたのが1907年。
「アデーレ=ブロッホマイヤーの肖像Ⅰ」と呼ばれるその絵は、1938年のナチによるオーストリア併合まで、同家の壁を飾っていました。ドイツ侵攻によるナチからの略奪は免れたもの、名画の価値を知る同国人により、“ウィーン国立ベルベデーレ美術館”に強制展示されることになってしまうのです。
戦後、オーストリア政府が、個人から収奪された美術品の返還を決めます。しかし、この絵はオーストリアのモナリザとも言われ、返還されるなんてことは政府を含め誰もの想像外だったようです。
ナチの手から一人生き残った、アデーレの姪“マリア・アルトマン”と駆け出しの一人の若い弁護士が、絵がマリアに帰属する証拠を集め、オーストリア、アメリカ両国の政府と、法廷闘争を繰り広げた結果、なんとこの絵は正当な持ち主・マリアのもとに帰る、という話です。法廷劇としても良くできています。評価額は当時(2006年)1億ドル以上。現在この絵は、ニューヨークの“ノイエ・ギャラリー”に展示され、だれでも見ることができます。

脚本、監督、音楽などが第一級の上、主演の“ヘレン・ミレン”が素晴らしい演技をまたまた披露してくれます(2006年に、“クイーン”でアカデミー賞主演女優賞を獲得しました)。
今年見た映画で、印象に残るのは、“天空からの招待”“白夜のタンゴ”“黒衣の刺客”“ビビアン・マイヤーを探して”“ボーイソプラノ”などいくつかありますが、この作品は、私の中ではビビアンと並び今年のトップに位置付けられそうです。

私の趣味は、いろいろありますが、中でも「映画」は、トップクラスに入ります。母親に連れられ、まだ桟敷席の残る”電気館“や”スバル座“”花園映劇“など小、中学生時代は足しげく通いました。緑陵高校に入学するとすぐ、映画部に入り、生物の西野先生と映画論で楽しい時間を過ごしたものでした。しかし担任でもあり、我が家の経済事情をよく知る西野先生から「このまま映画を見続け、受験勉強を疎かにすると、北大現役は無理」と言われ、2年からは映画を中断しました。

2年前には仕事の現役をほぼ卒業したのを契機に、山、オペラ、映画、---と、忙しい毎日が戻ってきました。また、よい映画を見たら、紹介するのが楽しみです。

終わり

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